2022年は日本の洋上風力発電開発スタートの年といえるでしょう。まず、大規模商用プロジェクトである秋田港・能代港の風力発電所が予定通り商業運転を開始します。さらに、政策の方向性が明確になりました。日本政府は9月、新たに「促進区域」を3カ所指定。「有望な区域」5カ所、「一定の準備段階に進んでいる区域」11カ所も整理しました。入札ルールがまとまり次第、第2弾の入札が2023年に再開される予定で、年間1-1.5GWの設置容量を目指します。
2022年の累計設置容量は204MWと予測されています。2025-2026年は、現在工事中の洋上風力発電所が全て完成すれば513MWとなる見通しです。第1弾の入札では稼働時期が特には重視されませんでした。現在の環境影響評価(環境アセスメント)は時間がかかることも考えると、現在、環境アセスメントの段階にある三菱商事の企業連合が落札した3海域の洋上風力発電所が順次完成するのは2028-2030年と予測されます。ベースラインシナリオと楽観的シナリオでは、日本の当局が冗長な環境アセスメントという問題を前向きに解決し、入札ルールを見直して、早期稼働の評価配分を高めると想定。この場合、第2弾の入札案件である「秋田県八峰町及び能代市沖」の洋上風力発電所は2026年に完成し、2027年からは安定的に年間1-2GWの伸びが見込めます。日本の2030年の累計設置容量は、ベースラインシナリオでは6.7GWに、楽観的シナリオでは7.2GWになると見込まれます。
しかし、悲観的シナリオでは、日本がこれらの問題を解決できないと想定。この場合、「秋田県八峰町及び能代市沖」の洋上風力発電の完成は2027年で、その後は年間3-4カ所の完成にとどまると予想され、2030年の累計設置容量は5GWほどにしかなりません。ほかの市場とは違い、日本には明確な達成目標がなく、設置容量については、2030年に承認ベースで10GWの洋上風力発電導入を計画しているのみです。InfoLinkは、日本の足元の開発は慎重で、2026年ごろ以降になって大幅に進展するとみています。以下は日本の現在直面する課題の分析です。
第1弾の入札制度は価格重視
2021年12月に発表された洋上風力発電の第1弾入札結果は、三菱商事の企業連合が3海域を低価格で落札しました。このうち、最低価格だったのは秋田県由利本荘市沖の11.99円/キロワット時。第1弾入札は、価格設定がそれ以外の重要なポイントを全て覆い隠してしまったと、少なからぬ議論を呼びました。日本が現在重視するのは、如何にして洋上風力発電の進展を加速させるかということで、価格を競争入札の主な決定要素にするべきではないとの意見が上がりました。このため、日本政府は第2弾の入札を一時ストップし、入札ルールを見直すことを決定。先ごろ公表された草案では、ルールの一部が台湾のブロック開発と似たものとなっています。以下の図は、台湾のブロック開発と日本の第2弾入札ルール草案の比較です。
日本では、入札価格と開発容量に制限を設けることがわかります。中でも、第1弾入札で明らかになった弊害については、基準価格を設定することで、入札結果への価格の影響度を下げる狙いです。入札価格が基準価格を下回った場合は、一律で上限の120ポイント獲得とします。日本が設定した開発容量の上限は1GWで、台湾と比較してスケールメリットが狙えます。特にアジア太平洋市場は向こう数年、激しい競争になり、海外の開発企業による投資を呼び込めるだけの規模が非常に重要となります。また、日本では、事業実現性120点のうち、風力発電所の早期稼働が評価項目として加えられます。
日本は2022年末に改定した入札ルールを公表する見通しで、2023年に入札を再開する予定。第2弾入札は7カ月遅れていますが、新ルールが風力発電所建設のスピードを加速させる可能性があります。
冗長な環境アセスメント過程
二つ目の課題は、冗長な環境アセスメントです。日本の現在の計画では、風力発電所開発事業者の選定後に環境アセスメントに入り、その審査手続きは全部で四段階(配慮書、方法書、準備書、評価書)あります。それぞれの段階で一般住民や経済産業省、環境省、地方自治体の意見を聞き、開発事業者が各方面からの意見に基づいて報告をまとめ、次の段階に進みます。
前段階の審査だけで最長2年、実際の調査はさらに時間のかかる工程です。このため、膨大な時間とコストが必要で、環境アセスメントの全段階が完了するには4-6年かかります。現在のプロセスに従えば、日本では承認した10GWの風力発電所全てが完成するのは2038-2040年になる可能性があります。
まとめ
日本が洋上風力発電開発で設定した目標は、
- 低価格:2030-2035年の発電コストを8-9円/キロワット時に低減
- 国産化:サプライチェーンの60%を国内化
- 成長加速:導入量を2030年に10GW、2045年に30-45GW
コスト低減では、日本は風力発電容量の上限を引き上げて風力発電所の規模を確保することで、スケールメリットを創出できます。スケールメリットが、地元開発事業者の洋上風力発電産業参入の動機付けになります。同時に、日本は国産化政策の策定ペースを加速させ、現地サプライチェーンを育成する必要があります。そして、環境アセスメントのプロセス緩和により、風力発電所開発のフローがよりスムースでスピーディになり、おのずと日本の洋上風力発電開発も加速すると期待されます。ただ、新興市場にとって、三つの目標を同時進行で追うのは難しいでしょう。InfoLinkは、カーボンニュートラルのプレッシャーがかかる中、今の日本はまず、開発に重点を置くべきだと考えます。現地サプライチェーン構築については、市場メカニズムを取り入れることで一定の柔軟性を持ちながら、開発事業者が適切な項目を選定して国産化を進めます。現地サプライチェーンと提携すると事業選定で有利になる、台湾の産業連関政策における「ボーナス項目」のような仕組みが考えられます。このようにして、開発事業者と現地サプライチェーンによる協力の積極性を高める一方で、非常に困難な項目で袋小路に入り、市場開発を遅らせてしまうという事態を避けることもできます。