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制作者 Penny Liao
更新日 January 04, 2023

IRAのエネルギー貯蔵設備に対する基本控除

米国時間2022年8月16日、バイデン大統領がインフレ抑制法案(Inflation Reduction Act, IRA)に署名しました。気候変動と再生可能エネルギー分野に3,690億ドルを投じ、2030年に炭素排出量を2005年に比べて40%削減することを目指すものです。同法案は太陽光発電と風力、電池のサプライチェーン(供給網)とエネルギー貯蔵市場を実質的に刺激する効果があります。エネルギー貯蔵についての意義は、米国が初めて独立型(スタンドアローン)設備に対しても投資税控除(Investment Tax Credit, ITC)を適用することにあります。

IRA発布前は、家庭用のエネルギー貯蔵設備は太陽光発電による充電が100%に達して初めて控除が受けられました。フロント・オブ・ザ・メーター(FTM)・商業産業用のエネルギー貯蔵設備は太陽光発電による充電が75%以上で初めて、その充電割合に応じたITCが受けられました。例えば、太陽光発電による充電が100%であれば、最大の26%のITCが受けられ、太陽光発電による充電が75%であれば、ITCは19.5%です。IRA法案の発布後はITCが十年延長されるだけでなく、太陽光発電による充電の制限もなくなることで、独立型バッテリーエネルギー貯蔵システム(standalone BESS)が控除の対象となり、今後の発展への影響は大きいと見込まれます。

表一:IRA発布前のエネルギー貯蔵システムITC控除率
IRA発布前のエネルギー貯蔵システムITC控除率


IRA法案ではエネルギー貯蔵設備に対する控除をFTM・商業産業用と家庭用の二種類に分けています。FTM・商業産業用のエネルギー貯蔵設備は定格発電容量(Nameplate capacity)が5kWh以上、家庭用は3kWh以上を要件としており、当初のITCはそれぞれ、2035年、2022年に終了予定でした。IRA法案発布後、ITCは控除率30%で十年延長され、2033年から段階的に引き下げられます。

表二:IRA発布前後のエネルギー貯蔵設備に対するITC比較
IRA発布前後のエネルギー貯蔵設備に対するITC比較


ボーナス控除と要件

基本控除のほか、FTM・商業産業用エネルギー貯蔵プロジェクトでは、一定の米国での製造割合を満たしたり、定められたエネルギーコミュニティに設置するという条件を満たしたりしていれば、それぞれ別途最大10%のボーナス控除を得られます。つまり、得られるITCは最大50%となります。注目すべきは、同法案ではFTM・商業産業用エネルギー貯蔵プロジェクトを1MWで線引きしていることです。表三のように、1MW以上のエネルギー貯蔵プロジェクトでは、労働者と給与に関する要件を満たして初めて満額の控除が得られます。そうでない場合、最大6%の基本控除と2%のボーナス控除にとどまります。よって、要件を満たしているかどうかで、控除の範囲が6%から70%と、大きな差が生じるため、システム事業者側は基本的に労働者要件を満たすよう努めます。1MWより小さいエネルギー貯蔵システムでは、労働者や給与の要件に合致しなくても30%のITC基本控除を得られます。

表三:IRA発布後のエネルギー貯蔵ITC要件
IRA発布後のエネルギー貯蔵ITC要件


IRAの米国エネルギー貯蔵への影響

2021年、米国のエネルギー貯蔵設備の新設は10.5GWhを上回りました。累計容量は17GWhを超え、2022年には20GWhに達すると楽観的に予想されています。市場の約85%がFTM向けです。IRA法案のエネルギー貯蔵市場への最大の影響は、独立型設備も控除の対象に含まれることです。以前は、商業産業用エネルギー貯蔵設備は一定割合の太陽光発電とセットである必要があったため、充放電時間が限られました。このため、時間帯別電気料金を利用して裁定取引を行うことが難しい状態でした。同法案可決により、グリッド側でより多くのアンシラリーサービスを運用したり、ほかのエネルギーとのシェアを組み合わせたりすることができ、エネルギー貯蔵システムの収益モデルがより柔軟になりました。また、IRAは米国国内の先端メーカーに対して、生産税額控除(production tax credits, PTC)を用意するほか、米国で製造された電気自動車を支持する補助を通して、電池セルのサプライチェーン(供給網)に規制をかけており、供給網の現地化は不可欠です。現時点では、電池セル生産能力の多くが中国に集中しており、米国での現地生産化は短期的にコスト上昇につながります。しかし、供給網が整えば、コストを急速に引き下げることができ、米国のエネルギー貯蔵市場の長期的な発展にプラスになるでしょう。

ビハインド・ザ・メーター(BTM)の住宅用市場についてみてみます。多くの家庭用エネルギー貯蔵システムが太陽光発電と接続するために設置されています。しかしながら、太陽光発電の側から見ると、米国の年間の新規太陽光発電装置のうち、エネルギー貯蔵装置の普及率は20%に達していません。これは、太陽光発電+エネルギー貯蔵システムの初期投資コストが、単に太陽光発電システムを設置するよりもはるかに高いためです。ローレンス・バークレー国立研究所(Lawrence Berkeley National Laboratory, LBNL)のデータによると、カリフォルニア州では、太陽光発電+エネルギー貯蔵システムを設置したユーザーの収入の中央値は、太陽光発電装置のみを設置したユーザーの収入の中央値より41%高くなっています。IRA法案施行後は、投資資金の回収期間縮小に加えて、米国の電力網安定度に改善の余地があるといった要素のため、BTMの独立型エネルギー貯蔵システムの設置容量が幾分向上すると期待されます。このほか、以前はコミュニティソーラー計画に参加するユーザーはエネルギー貯蔵装置のITC要件には合致しませんでしたが、IRA法案が可決したことで今後、こうしたユーザーは自宅で独立型エネルギー貯蔵システムと連携することができると同時に控除も受けられるようになります。同法案はFTM、BTMにかかわらず、エネルギー貯蔵システムの設置容量増加に一定程度のプラス効果があり、また、柔軟性の高いさまざまな応用が可能になる効果もあります。
 
図一:米国のエネルギー貯蔵装置の設置容量予測
米国のエネルギー貯蔵装置の設置容量予測


IRA施行後、米エネルギー貯蔵市場に中国が切り込む機会は皆無か?

IRA政策は、米国現地で製造するサプライチェーンにやさしいものとなっています。エネルギー貯蔵設備では、一定割合を米国で製造していれば多くのボーナス控除が受けられるほか、現地の電池セルサプライチェーンにもやさしいものとなっています。FTM市場では、米国がサプライチェーンの現地化に対して強気の姿勢のため、一部の川下の顧客が電池セルメーカーに対して、米国で組み立てることを求め、関連企業が対応策を打たざるを得なくなっています。こうしたことを背景に、恵州億緯鋰能(EVEエナジー)や厦門海辰儲能科技といった電池セルメーカーが現在、北米やメキシコ、近隣国での増産を積極的に計画しています。電池セルの川上の供給網では、より長い建設期間が必要となるため、第一段階では電池セルから電池パック(cell-to-pack)、関連の総合メーカーが中心となり、電池セルの生産について検討されるのは次の段階と見込まれます。また、一部の企業では今後、韓国企業との協力割合を高めることでリスク回避を考えることもあるでしょう。

BTM市場については、IRA法案が家庭用エネルギー貯蔵装置に対して製造地規制を設けていないことに加えて、家庭用エネルギー貯蔵装置は参入障壁が比較的低いことで、近年多くの企業がこの市場へ積極的に参入しようとしています。2021年の米国の家庭用エネルギー貯蔵装置市場を見てみると、テスラ、BYD、エンフェーズ・エナジーが販売大手で、この三社で全米での販売の約八割を占めます。2022年の米国での見本市では、多くの新規参入企業がみられました。このことは、中国企業による米国の家庭用エネルギー貯蔵市場参入には、まだ多くのチャンスがあることを示しています。新規参入企業は、増産により生産コストを抑えるほか、より多くの販売業者と協力することで、市場規模と流通ルートを開拓することも、米国の家庭用エネルギー貯蔵市場参入のカギになります。

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