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制作者 Pierre Chen
更新日 August 26, 2022

米国の電気自動車に関する税金補助改革

「インフレ抑制法(Inflation Reduction Act ,IRA)」法案は2022年8月7日、米上院で可決され、2022年8月12日には下院でも可決され、ホワイトハウスに送られてバイデン大統領が署名しました。新法のポイントの一つは、米本国で製造された電気自動車を支援する補助金が含まれている点です。補助金を申請するには北米で組み立てられた電気自動車である必要があり、電気自動車購入者に7500ドルの税額控除があります。また、以前の電気自動車購入支援策では、累計販売台数が20万台に達したメーカーの電気自動車には補助金が縮小・廃止とされていましたが、この制限が撤廃されました。このため、北米で大量に電気自動車を製造し、上限を超えていたテスラやゼネラルモーターズ(GM)が改めて補助金の対象になる見通しです。

表一の通り、 7500ドルの補助は二つの部分で構成されています。1)バッテリー中の重要鉱物の40%以上が米国または米国と自由貿易協定を結んでいる国で採掘または加工されていれば、3750ドルの補助が受けられます。2)バッテリー部品の50%が米国または米国と自由貿易協定(FTA)を結んでいる国から調達されている場合、3750ドルの補助が受けられます。この比率は毎年10%ずつ引き上げられ、2027年に最高の80%となります。
このほか、1)2024年以降、「懸念のある国」から調達したバッテリー部品を使用した電気自動車には補助が適用されません。2)2025年からは、「懸念のある国」で採掘、加工、リサイクルされた重要鉱物を使用したバッテリーは全て補助が適用されません。このため、私たちは、インフレ抑制法の可決が、世界のバッテリーセルサプライチェーン(供給網)に影響を与えると予想しています。

表一:IRAの電気自動車補助に対する影響

IRAの電気自動車補助に対する影響


世界のバッテリー供給網の現地化トレンドがより鮮明に


図一:世界バッテリーセル供給網分布

世界バッテリーセル供給網分布
Source: IEA 2022

図二:韓国正極材料メーカー生産能力分布と予測
韓国正極材料メーカー生産能力分布と予測
Source: Companies, InfoLink

国際エネルギー機関(IEA)が2022年7月に発表したGlobal Supply Chains of EV Batteries reportによると、図一で示したように、バッテリーに必要な金属材料は主にオーストラリアやインドネシアに集中しており、前駆体材料や部品、セルの製造は中国に集中しています。このため、中国以外のエリアでバッテリーセル工場を設置する際には、関連材料のサプライチェーンが乏しいため、検討、設計、工場建設から目標の生産能力を達成するまでにかかる時間が、中国で工場を建設したり拡充したりする場合よりもはるかにかかります。例えば、中国の電気自動車用バッテリー大手である寧徳時代新能源科技(CATL)が中国でバッテリーセル工場を設置する場合は1年かかりませんが、ドイツで工場を建設する場合は3年以上かかります。

インフレ抑制法の自動車購入補助7,500ドルは、手ごろな主流の電気自動車価格約40,000ドルの20%前後に当たり、米国の一般市民が自動車購入を決めるに当たって大きな影響があると見込まれます。加えて、同法は、中国で加工したバッテリー前駆体とバッテリー材料に制限を設けており、世界のバッテリーサプライチェーンが現地化する流れがより明確になると見込まれます。インフレ抑制法は、中国以外のエリア、特に米国や米国とFTAを結んでいる国でのバッテリー材料サプライチェーン設置の加速につながると予想されます。

韓国は米国とFTAを結んでおり、また、韓国のLGエナジーソリューションやSKイノベーションといったバッテリーセルメーカーが米国で長く投資しています。バッテリー材料については図二で示すように、韓国バッテリー材料メーカーのポスコケミカルやLG化学、エコプロBMが2025年には、正極材料生産能力の50%以上を米欧と韓国に置く見通しです。こうしたことからInfoLinkは、韓国のバッテリーセルとバッテリー材料関連企業が非常に大きな恩恵を受けると予想しています。
 

政策がもたらす時間のプレッシャー

 米国のバッテリーセル生産能力/需要予測

Source: Companies, InfoLink  

InfoLinkによる米国のバッテリーセル生産能力と需要予測からすると、2023-2024年は同法による中国のバッテリーセルサプライチェーンへの制限が一部にとどまるため、サプライチェーン全体への影響は大きくないと考えられます。ただ、原材料採掘や加工といったバッテリーセルの川上になるほど、検討、計画、工場建設から量産までの時間は長くなります。同法の補助が2024年から中国で製造された正極材料と負極材料に適用しないということは、まだ一定の比率で中国から調達した前駆体でバッテリー材料が製造されることも意味します。しかし、2025年から中国で採掘、加工、リサイクルしたバッテリー重要金属原料が完全に禁止されます。これはつまり、補助の適用を受けたいバッテリーセルサプライチェーンに対して、完全な脱中国を求めることといえます。これにより、既存のバッテリーセルサプライチェーンにおいて、前駆体加工からバッテリー材料、バッテリーセル製造まで、高い比率で中国に集中している現状が変わる可能性があります。時間的なプレッシャーのもと、関連のサプライチェーン構築、さらには、世界のバッテリーセルサプライチェーンの分布比重が大きく変わるかどうか注目されます。

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