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制作者 Derek Zhao
更新日 August 01, 2022

ウエハースライスは太陽光シリコンウエハー製造のコア技術の一つです。大型化、薄型化は製造コストの低減効果が大きく、シリコンウエハー製造におけるコア技術のトレンドとなっています。この2年、シリコン材料価格が高水準にあり、ウエハーの薄型化が進みました。また、2017年にはダイヤモンドワイヤによるスライスが従来の遊離砥粒方式から完全に取って代わり、ダイヤモンドワイヤの細線化もウエハースライス技術の進歩とコスト低減の指標となっています。
 

シリコン材料価格の高止まりでシリコンウエハー薄型化と細線化が加速

この2年、太陽光発電設備の設置容量が急速に拡大したことで、2021年はシリコン材料が供給不足となり、価格は月ごとに上昇。1キログラム当たり200人民元以上の状態が一年以上続いています。PV InfoLinkの予測では、22年のシリコン材料価格は高止まり。タイトな供給状況が緩和し、価格がゆるむのは2022Q4になってからと予測されます。シリコン材料価格が1キログラム当たり200人民元を下回るのは、23Q3に多くのメーカーが予定している増産計画が順調に進んでからと見込まれます。

シリコン材料価格予測

シリコン材料価格の上昇は、シリコンウエハー製造コストの著しい増大を招きます。シリコンウエハーのサプライヤーはコスト低減のため、シリコンウエハーの薄型化を加速させています。2018年から2020年の3年で、シリコンウエハーの厚さは全体的に5μm薄くなっただけでしたが、21年から現在まででは既に15μm以上薄くなっており、薄型化はさらに進んでいます。

主流P型シリコンウエハーの厚み
Source:PV InfoLink_技術トレンドリポート_202205

シリコン材料価格が高騰する中、シリコンウエハーのコスト低減において、最も直接的で有効な方法はシリコンの節約となります。シリコンウエハーを薄くするほか、ダイヤモンドワイヤの細線化ももう一つの大きな要素となっています。大型シリコンウエハーのスライスを例に挙げると、21年上半期に主流だったダイヤモンドワイヤの芯線直径は42-47μmでしたが、現在の主流は既に36-40μmになっています。タングステン線を芯線とすることで、芯線32μmのダイヤモンドワイヤスライスを実現し、シリコン使用量をさらに低減しているメーカーもあります。
 

ダイヤモンドワイヤ市場の需要拡大

PV InfoLinkの最新予測によると、2022年の世界の太陽光発電装置の新規設置容量は239GWを超える見込みです。設置需要の高まりがシリコンウエハーの需要急増につながり、シリコンウエハー製造の中心的な補助材料であるダイヤモンドワイヤの需要も必然的に大きく増加するとみられます。また、ダイヤモンドワイヤが細線化することで、ワイヤ表面の単位面積当たりの砥粒量は減少します。青島高測科技(Qingdao Gaoce Technology)サイトのダイヤモンドワイヤ製品のパラメーターを参考にすると、43μm電着ダイヤモンドワイヤの場合、集中度は180±30個/mmですが、37μm電着ダイヤモンドワイヤでは140±30個/mmとなります。切断力の低下により、ウエハー1枚を製造するために必要なワイヤ使用量は大きく増加します。

シリコンウエハースライス時のワイヤ使用量についてみてみます。現在主流の182mmウエハーでは総ワイヤ使用量が約3.5-4m/枚、210mmウエハーでは4.8-5.3m/枚、1ワット当たり換算では0.46-0.53メートルとなります。このことから、2022年の1GW当たりのワイヤ使用量は50万キロメートルと予測されます。今後、細線化がさらに進むことで、年間の1GW当たりのワイヤ使用量は5万キロメートル伸びると予測されます。


世界の太陽光発電需要量

太陽光発電の設置容量拡大と細線化のさらなる進展で、2022年のダイヤモンドワイヤ需要は2021年に比べて大きな伸びを示しています。2022年のダイヤモンドワイヤ需要は1.5億キロメートルに達し、2023年の需要は2.5億キロメートルを超えると予測されています。
 

ダイヤモンドワイヤ市場の供給能力

現在主流のダイヤモンドワイヤ通常規格製品では、芯線に高炭素鋼が使われています。製造と応用はアメリカ、日本といった先進国から始まり、当初、競争力のあるダイヤモンドワイヤのサプライヤーは日本とアメリカに集中。日本の旭ダイヤモンド工業、中村超硬、アメリカのDMTといった国際的企業がダイヤモンドワイヤ製造の分野で世界をリードしていました。2017年以降は、中国のダイヤモンドワイヤメーカーが勃興し、輸入代替が加速。中国国内のダイヤモンドワイヤは、中国企業による代替がほぼ100%実現しています。足元では、ダイヤモンドワイヤの全体的な供給は「一超多強」の局面となっています。具体的には、楊凌美暢新材料(Yangling Metron New Materials)が何年も連続でシェア50%以上を占めており、青島高測科技や河南恒星科技(Henan Hengxing Science & Technology)、江蘇聚成金剛石科技(Jiangsu Resource Fusion Solar Technology)、張家口原軾新型材料(Zhangjiakou Yuanshi Advanced Materials)の単月供給量がいずれも100万キロメートルを超えています。

ダイヤモンドワイヤ市場の供給能力
Source:公開情報と業界調査、PV InfoLinkまとめ

21年末現在、ダイヤモンドワイヤの公称生産能力は1.58億キロメートルに達しており、基本的には22年の需要を満たすことができます。メーカーのさらなる生産能力拡充に伴い、22年末の公称生産能力は3億キロメートルを超えると見込まれています。

実際の供給についてみてみると、21年の上場企業による総供給量が約6700万キロメートル。張家口原軾新型材料と江蘇聚成金剛石科技を合わせた供給量が約2500万キロメートルといわれており、上記表の企業による供給量は計約9200万キロメートルとなり、21年の市場需要である約9000万キロメートルに基本的に合致しています。
 

タングステン線を芯線としたダイヤモンドワイヤ

現在、 ダイヤモンドワイヤソーでは基本的に92cや100c線材を採用し、さまざまな規格のダイヤモンドワイヤソーに対応しています。35μmと36μmの電着ダイヤモンドワイヤは、必要とされる破断力がそれぞれ≥5.3Nと5.8N、ウエハースライス時に必要な張力とスライス中の張力変動の余地を確保することを考えると、太陽光シリコンウエハーのスライスに用いることのできる通常規格の高炭素鋼ワイヤの線径は約35μmが限界です。ただ、現在スライスに用いられているワイヤはすでに35μmに非常に近いか、すでに達しており、さらなる細線化は難しい状況です。

高い破断力でメーカーからの注目が高まっているタングステン線。その優れた性能は以下の通りです。

  1. 破断強度が高く、同規格の炭素鋼の1.2~1.3倍、ねじり剛性も高く、同規格の炭素鋼の10倍以上、さらに、タングステン合金ワイヤのヤング率はスチールワイヤの1.7倍。一方で、延伸比は炭素鋼の約60%にとどまります。
  2. タングステンは体心立方格子構造です。ドーピング後のタングステン合金ワイヤは微結晶構造で、結晶サイズは約100nm、組織を均一にし、内部の不純物をなくし、純度が99.95%に達すれば、極細タングステン線の製造に有利になります。
  3. タングステン合金ワイヤの電気抵抗率は5.4×10~6ω/cmで炭素鋼のわずか55.7%と、電流容量が2倍で、均一で緻密なニッケルめっき層を形成できます。
  4. 高い耐腐食性があり、硫酸や塩酸の中でも腐食しないため、製造過程での酸による腐食で芯線が断線するといった事態を避けることができます。こうしたタングステン合金ワイヤの優れた性能は、極細、高強度というワイヤーソー設計需要に非常に合致しています。

Source:一種超細高強度合金鎢絲金剛石線鋸及其製備方法(極細高強度タングステン合金ワイヤのダイヤモンドワイヤソーとその製造方法)

太陽光シリコンウエハーのスライスに用いることのできるタングステン線の生産能力は限られているため、タングステン芯線の販売価格は通常規格の炭素鋼芯線の4-5倍。このため、タングステン線を芯線としたダイヤモンドワイヤの価格は、通常規格のダイヤモンドワイヤの2-3倍になっています。タングステン線を芯線としたダイヤモンドワイヤは価格が高いものの、線径が細く、スライス時のシリコンのロスを有効に減らすことができます。このため、現在のシリコン材料価格が高いことを鑑みると、高い破断力と強さを持つタングステン線では、より細いワイヤを使用しても断線率は低く、全体的なワイヤ使用量が約10%低減できることが分かりました。今後、タングステン線を芯線としたダイヤモンドワイヤの1巻当たりの長さが100km/巻以上となることで、全体的なワイヤ使用量はさらに低減できると期待されています。コストシミュレーションでは、シリコン材料価格が300人民元/Kgで、タングステン線を芯線としたダイヤモンドワイヤの価格が約90人民元/Kmの場合、同ダイヤモンドワイヤでG12規格のシリコンウエハーをスライスしたコストは、通常規格ダイヤモンドワイヤの場合より約0.04人民元/枚低くなることが分かりました。現在のダイヤモンドワイヤ価格に照らすと、シリコン材料価格が240人民元/Kg前後の場合に、タングステン線を芯線としたダイヤモンドワイヤと通常規格ダイヤモンドワイヤのスライスコストが同じくらいになります。

G12規格シリコンのスライスコスト差

コスト差を示した上記グラフから分かる通り、シリコン材料価格が高ければ高いほど、タングステン線を芯線としたダイヤモンドワイヤの優位性が大きくなります。今後、通常規格のダイヤモンドワイヤとシリコン材料価格が低下しても、タングステン線を芯線としたダイヤモンドワイヤも価格低下とさらなる細線化により、その優位性を保つことができます。仮に今後、線径36μmの通常規格ダイヤモンドワイヤと線径30μmのタングステン線を芯線としたダイヤモンドワイヤがそれぞれ、G12規格シリコンウエハーをスライスできると仮定します。この場合、タングステン線を芯線としたダイヤモンドワイヤ価格が80人民元/Kmまで下がり、シリコン材料価格が180人民元/Kgより高い場合に、同ダイヤモンドワイヤによるスライスがコスト面で優位になります。また、同ダイヤモンドワイヤは細線化の余地がまだ大きく、線径30μm以下まで可能とされています。

G12規格シリコンのスライスコスト差

足元ではタングステン芯線の主要サプライヤーはパナソニック。厦門鎢業(Xiamen Tungsten) と中鎢高新材料(China Tungsten And Hightech Materials)の生産能力は小規模にとどまっています。現在、タングステン線を芯線としたダイヤモンドワイヤをある程度の規模で供給できるのは主に江蘇聚成金剛石科技です。楊凌美暢新材料や長沙岱勒新材料科技、張家口原軾新型材料も少量の供給にこぎつけており、その他のダイヤモンドワイヤメーカーも積極的に取り組んでいます。今後、厦門鎢業と中鎢高新材料が計約700億メートルのタングステン線を増産することで、120-140GWの太陽光発電装置製造に必要な電着ダイヤモンドワイヤ需要に対応できるようになります。また、タングステン線を芯線とする場合、通常規格ダイヤモンドワイヤと最も大きく異なる点は、事前にタングステン線の生産過程で表面に生じる酸化膜と残留しているコロイド黒鉛を除去する必要があることです。ニッケルめっき皮膜の結合力を確保するためには、通常の酸化膜やコロイド黒鉛の除去方法では、ダイヤモンドワイヤの生産スピードに対応できず、除去率も低くなり、タングステン線表面の清浄度も確保できません。こうした技術的課題が、通常規格ダイヤモンドワイヤからタングステン線を芯線としたダイヤモンドワイヤへの切り替えをより複雑にしています。
 

まとめ

大型化薄型化とダイヤモンドワイヤの細線化は長らく、シリコンウエハー製造技術の進歩のトレンドでしたが、シリコン材料価格の高止まりが、この進展を加速させています。通常規格の炭素鋼線が既に性能的な限界に近付いており、さらなる細線化の余地は限られています。一方、タングステン線はその高い破断力で、通常規格の炭素鋼線にかわる次のダイヤモンドワイヤの芯線になるとみられています。

タングステン芯線の供給が限られていることで、タングステン線を芯線としたダイヤモンドワイヤの実際の供給には限りがあります。今後、厦門鎢業と中鎢高新材料が、タングステン線の生産を計約700億メートル拡充することで、年間約120-140GWの太陽光発電装置製造に必要な電着ダイヤモンドワイヤの需要に対応できるようになります。2023年のシリコン材料価格が依然として高水準と見込まれることから、同年のタングステン線を芯線としたダイヤモンドワイヤの使用割合はさらに高まると予測されています。

タングステン線を芯線としたダイヤモンドワイヤによるスライスは優位性があるものの、シリコンウエハー製造コストの大幅な低減は見込めません。また、太陽光発電グレードのタングステン線供給能力には限りがあるため、向こう1-2年は炭素鋼線が依然として、ダイヤモンドワイヤの芯線として主流であると見込まれます。

今後、タングステン線を芯線としたダイヤモンドワイヤのさらなる細線化と価格低下が進めば、ウエハースライス分野でその優位性が十分に発揮されるでしょう。また、太陽光発電グレードのタングステン線がさらに増産されれば、通常規格の炭素鋼線からの転換が加速すると見込まれます。

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