J-DeEP技術研究組合(Japan Offshore Design & Engineering Platform Technology & Engineering Research Association)とスコットランド国際開発庁(Scottish Development International)が連携し、洋上浮体式水素製造プラントの開発を計画しています。同プラントは、海水淡水化システムと、水を電気分解して水素を取り出す水電解装置を組み合わせたもので、洋上風力発電の余剰電力を使って水素を作るものです。J-DeEPはこの計画の事業化調査に着手しており、同プラントは英国スコットランド沖の洋上風力発電所近くに設置します。
一般財団法人日本海事協会(ClassNK)が先ごろ、同計画について安全評価を実施し、基本承認(AiP)を発行しました。この研究は、風力の運転抑制を低減できる可能性があり、日本で水素エネルギー社会に向けた取り組みが進められる中、生産過程でCO2を排出しない「グリーン水素」の生産量を増やすことができ、日本のエネルギー自給というビジョン実現にもつながります。
日本は2030年、2050年までの水素エネルギー計画を策定
エネルギー自給率向上と2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、日本は水素エネルギーを切り札の一つと位置付けています。2017年には「水素基本戦略」を策定しており、2030年までの水素エネルギーの開発計画と目標を定め、エネルギー開発計画に水素エネルギーを盛り込んでいます。また、2019年には「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を改訂し、方向性を具体化して、技術開発項目と詳細なコスト目標を設定しています。
日本の経済産業省(METI)は2020年12月に「グリーン成長戦略」を、2021年6月には「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定しており、水素エネルギーはグリーン成長戦略の14の重点産業の一つとされています。
日本の水素エネルギー開発における主な目標は次の通りです。
- 水素サプライチェーンの拡大、水素エネルギー発電の普及:2030年に水素の導入量を300万トン、コストを30円/N㎥(ノルマルリューベ=標準状態での気体の体積)、2050年には導入量を2000万トン、コストは同20円に。
- 運輸分野での活用拡大と商用化:燃料電池車(FCV)増加と水素ステーション増設。2021年時点で日本にはFCVが約6000台、水素ステーションは166カ所ありますが、2025年にFCV20万台、水素ステーションは320カ所、2030年にはFCV80万台、水素ステーションは1000カ所とすることを目標に設定しています。
- 水電解装置のコスト低減による国際競争力強化:2030年に水電解装置のコストを5万円/kWとし、1N㎥の水素を製造するのに必要な電力を5kWhから4.3kWhとし、効率を約16.3%高めます。
日本は現段階ではブルー水素を重視
カーボンニュートラルの目標に向けて、日本は再生可能エネルギー開発計画を積極的に進めていますが、水素エネルギーにおいては、まずは水素のコスト低減と活用普及促進に注力し、ブルー水素(天然ガスや石炭などから取り出された水素)と水素エネルギーの国際輸送を進展させています。
日本とオーストラリアは水素エネルギーのサプライチェーン構築で協力しています。オーストラリア・ビクトリア州ラトロブバレーで、低品位の石炭「褐炭」から水素を製造し、マイナス253℃まで冷却して液化水素として体積を圧縮し、液化水素運搬船「すいそふろんてぃあ」で神戸まで運ぶプロジェクトです。2022年2月に運搬船が液化水素を積んで神戸に帰港しており、世界初の液化水素輸送となりました。現在、このプロジェクトは実証段階にあり、2030年の商用化を目指しています。この実証成功は、日豪の水素エネルギーサプライチェーンを確立しただけでなく、水素エネルギー輸送技術の重要なマイルストーンにもなりました。
同プロジェクトでは、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)技術により石炭燃焼で生じた排出物を処理し、オーストラリア沖の海底に貯留する計画で、理想的なシナリオでは年間180万トンのCO2排出が削減できる見込みです。ただ、CCUS技術にはまだ多くの課題があります。ブルー水素は削減できるCO2排出量が限定的な上、製造過程でメタン漏れの懸念があり、メタンの温暖化効果はCO2よりも高いこと。また、技術が成熟していない状況で、コストが非常に高く一定のリスクもある上、炭素は「封じ込められる」に過ぎず、数十年後の未来にどう処理するかがまだはっきりしていないことです。
ブルー水素の1キログラム当たりのコストは現在7 – 10米ドル。一方、グリーン水素のコストは再生可能エネルギーの供給コスト次第のため同10 – 15ドルとなっています。日本の再生可能エネルギー価格が依然として高止まりしていることを考えると、ブルー水素は日本の2030年の水素エネルギー生産量目標達成や、水素エネルギーの普及と活用の力になるものの、カーボンニュートラルビジョンにおける過渡的な手段に過ぎません。再生可能エネルギーの価格が一定水準まで下がれば、グリーン水素がスムースに市場に出回るようになり、グリーン水素価格がブルー水素より安価になると期待されます。このため、日本はブルー水素の製造と輸入を進めると同時に、グリーン水素への投資と水電解装置開発のペースを加速させるべきでしょう。
台湾の水素エネルギー開発
台湾も近年、水素エネルギー開発を進めています。研究機関の工業技術研究院(工研院、ITRI)は2021年9月、半導体製造装置などのメーカー帆宣系統科技(Marketech International)、燃料電池などを手掛ける亜◆(气のなかに脛のつくり)動力(Asia Hydrogen Energy)と製造工程での余剰水素回収発電に関する協力覚書を締結しました。水素エネルギー発電のナショナルチームを立ち上げて、南部・台南の沙崙緑能科技園区に新燃料電池パラメーター最適化実験サイトを設立する計画です。台湾は2022年3月、「2050ネットゼロロードマップ」を公表。グリーン水素の輸入と余剰電力による水素製造を推進し、水素エネルギー開発の需要に合わせて、水素エネルギー管理に関する特別法を制定する方針を示しました。水素エネルギーはこのロードマップの12のキー戦略の一つと位置付けられています。
台湾は洋上風力発電開発では日本より先行していますが、水素エネルギーの取り組みでは大きく遅れを取っています。再生可能エネルギー供給が十分ではない中、生み出されたグリーン電力は半導体メーカーに買い占められ、グリーン電力が足りないことに加えて、水素製造コストは高く、技術は未成熟。台湾が大規模にグリーン電力による水素製造を実現するには道のりはまだ長いといえます。