電力系統はどのように運用しているか?
電力系統では使用するだけの電力を発電しています。つまり、発電出力は電力使用負荷と同じということです。また、同一の送配電網内の発電機や送配電設備、負荷側の需要家は全て同じ商用電源周波数の交流電流を使用する必要があります。台湾を例に挙げると、台湾の送配電網の周波数は60Hzのため、火力、原子力、水力にかかわらず、回転機の回転速度はこの周波数に従って電力を供給する必要があります。送配電網の負荷が発電出力より小さい場合、周波数は上昇し、反対に送配電網の負荷が発電出力より大きい場合、周波数は低下します。送配電網の周波数が高すぎても、低すぎても、電力系統の設備を損傷させます。このため、送配電網の周波数を維持するため、電力会社は発電機の出力が負荷と同じになるよう調整しています。
一般的に電力会社は各地域の時間や気温の変化、さらには、過去のデータをもとに、先の一定時間の電力使用状況を推測し、電力使用負荷の予測に合わせて発電機を調整したり、外部から調達したりして電力を供給します。また、発電機それぞれの特性に合わせた調整も行います。例えば、台湾のエネルギー計画では、安定的かつ継続的に電力を供給できる石炭や原子力が第一類で、ベースロード電源と位置付けられています。第二類はガス、揚水式水力、リチウム電池エネルギー貯蔵システムなど。これらは負荷の変動に応じて迅速に稼働し、反応できる電源です。通常は発電コストが高めのため、ミドル、ピーク時の電源とされています。風力や太陽光といった予測が難しい電源は第三類とされています。調整ができない変動性エネルギーで、エネルギー貯蔵システムと組み合わせてはじめて、信頼性のある安定した電源になります。電力使用量が電力会社の予想を超え、各種点検や故障で発電機による調整も十分にできず、送配電網の周波数が一定程度まで低下すると電力系統全体の運転を維持するため、一部の負荷を切り離して電力系統の崩壊を防ぎます。これがいわゆる停電です。
電力系統の系統慣性とは何か?
従来的に、商用電源周波数の大部分は回転機の回転速度によって決まります。従来型の大型発電機の回転機は重さが何トンにもなります。この回転機のローターの回転速度変化を防止する慣性、つまり、商用電源周波数の変化を防ぐ慣性でもありますが、これが、発電システムにとって電源出力のバランス調整のための数分間を確保することにつながっています。しかし、風力や太陽光といった再生可能エネルギーによる発電では、パワーエレクトロニクス設備を使って送電網に接続するため、従来型発電機のようにタービンでエネルギーのアンバランスを吸収する仕組みがなく、送配電網に系統慣性を提供することがほとんどできません。このため、いったん大型機が止まると、低周波数負荷制限がかかる可能性が高くなります。風力や太陽光といったパワーエレクトロニクス設備で送配電網に接続する再生可能エネルギーの割合が高まれば高まるほど、電力系統もこれにともなって変革する必要があります。
IEAによる変動性再生可能エネルギー(Variable Renewable Energy, VRE)導入の6段階::
- 早期(第1、2段階)ではVRE割合が低く、既存の送配電網設備で対応可能か、わずかな調整のみ必要
- 中期(第3、4段階)では電力系統の調整モデルを大きく変更。また、電力系統は高い割合のVREに対応するためグレードアップが必要
- 後期(第5、6段階)では電力過剰または電力不足が長時間生じ、長期エネルギー貯蔵装置で一年を通して異なるエネルギー調整が必要。例えば、水素やそのほかの長期エネルギー貯蔵技術を使用するなど
VRE割合の高まりと電力システム移行の6段階
Source: IEA
Grid-followingとGrid-forming電力変換システム技術とは
グリッド変革が進むと同時に、エネルギー貯蔵システムが従来型エネルギーの発電機にかわって送配電網に周波数変調など短時間の電力供給を行うことが増えています。従来型接続のコンバーターはグリッドフォローイング(Grid-following)モデルを採用しており、このモデルでは送配電網の電圧角や周波数などの情報に基づいて電力出力を制御しています。コンバーターが迅速に送配電網の周波数に反応できたとしても、送配電網の周波数と電圧信号が失われた時には、送配電網への供給が続けられなくなります。接続されるエネルギー貯蔵装置の数が増え続けるに伴い、送配電網の周波数の変動でも連鎖反応による系統崩壊を引き起こす可能性があります。このモデルでは送配電網の周波数調整は従来型発電機が主となって担っています。これに対してグリッドフォーミング(Grid-forming)モデルのコンバーターは従来型の同期発電機と同じように、能動的に周波数出力を制御でき、コンバーターの周波数と出力を足元の負荷に合わせ、電力系統の安定稼働を確保します。